心理カウンセラーの成宮千織です。カウンセリングサービスのホームページに掲載された心理カウンセラーのコラムです。
私たちの幼少期の経験は人生の脚本となり、大人になってからも考え方や行動に影響するといわれています。子どもの頃、親は完璧な存在のように感じ、繰り返し親の言葉を聞き、行動を見ることで親の価値観を学び、それがやがて自分の常識となっていくようです。
私の両親は、昔からお金の心配をしていました。自営業ということもあり、会社員とは違って毎月決まったお給料がもらえなかったので、心配になる気持ちも理解できます。
両親から「お金がない」とストレートに言われていたか覚えがありませんが、「今月は仕事の量が少なくて…」と母が言っていたことをよく覚えています。
「仕事が少ない」=「お金が足りない」=「生活の不安」そして「私ができることは?」と考えました。子どもの私ができることと言えば、必要な物以外はねだらない、欲しいもの、行きたい場所があっても我慢する、それくらいでした。
両親も贅沢な物を買うことはほとんどなく、母がデパートに出かけることもありませんでした。そんな母を見て私は、「うちにはお金がないから、友達のお母さんみたいにデパートにも行けないんだ。かわいそう」と思っていました。
友達と遊びに出かけた時のことでした。私は100円硬貨2枚をどこかに落としてしまいました。母からもらった大切なお金をなくしてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。友達に手伝ってもらい必死に探しましたが、見つかりませんでした。私の心は罪悪感でいっぱいになりました。
家に帰った私は母にお金を落としたことを正直に話しました。母に叱られて悲しかったのですが、それよりも両親が働いたお金をなくした悲しさの方が大きかったのです。
両親の仕事は、暇な月もあれば、時期によっては休みもなく深夜まで働く月もありました。私が覚えているのは、仕事が忙しい時に母が座ったままこっくりこっくりとうたた寝をしている光景です。まだ子どもが起きている時間帯でしたので、それほど遅い時間ではありません。「またお母さん寝てる」と妹と話していました。そんな母を見ると、さらにお金のことでわがままを言ってはいけないと思ったのです。
お金のありがたみと、不安。私は不安の方が大きく、生活するにはお金が十分あったとしても、それがなくなる不安がとても強いのです。お金の不安は結婚してからますます強くなりました。少しでも安いスーパーを探して買い物をし、家計簿をつけていました。
主人はサラリーマンでしたので、毎月決まったお給料はもらえます。それでもお金をつかうことに不安を感じました。息子が産まれると、息子にはお金をつかうことはできますが、自分にはつかえないのです。必要な物は買うことができるけど、趣味や遊びにはつかうことはなかなかできない、それは子どもの頃とまったく同じ行動パターンでした。
大人になってから母に「デパートとか行かないの?」と聞いたことがありました。母は「私は興味がないの」と少し嫌そうな顔をして言うのです。母は我慢していたのではなく、デパートに興味がなかっただけだったのです。そして暇より働いているほうが好きということもわかりました。
仕事が少ないときも確かにあったけど、お金に対して不安が強かっただけで生活に困るほどではなかったこともわかりました。それには「なんだ、心配して損した」と母に言いました。わからないことが私たちはとても不安ですので、思い切って聞くことが不安解消につながることもありますね。
親もまたその親の影響を受けて世代間連鎖となります。今、人生に窮屈さを感じているとしたら、なんらかの親の価値観ブロックがかかっているかもしれません。物ごとに対する先入観を捨てて客観的に見ることができるようになると、選択肢が広がり自由度が増します。
とはいえ恩恵を受けていることもあります。物ごとには悪い面だけではなく、良い面もありますからね。お金の不安をどう減らしていくかと考えているうちに、私はどこのお店で買うのが一番お得か、ポイントが多くもらえるかなど楽しみながら節約することがとても得意になりました。